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一人スクラムによる自己管理とその効果

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この記事はM&Aクラウド アドベントカレンダー 2021の5日目の記事です。 今日は日曜ということで、仕事ではなくプライベートをテーマに記事を書きたいと思う。

自分は自己管理が苦手だ。 目標や計画を立て、いざ行動しようと思っても、ついつい楽な方へ逃げてしまう。 そんな問題を仕組みで解決しようと考え、「スクラム」というフレームワークを自分一人で回す「一人スクラム」(非公式)で自己管理を始めてみた。 この記事では一人スクラムの具体的な進め方や、実際に行って得られた効果について紹介する。

なお、スクラムやアジャイルについて個人的な見解が含まれているので、事実誤認や誤謬があれば自分の Twitter アカウントまでご指摘お願いします。

スクラムとは

スクラムに耳馴染みがない方もいると思うので、スクラムについて簡単に説明する。

スクラムとはチームが複雑な問題に向き合い、価値を生み出すためのフレームワークだ。 一連のルールはスクラムガイドという13ページ未満の文書 ^1 で説明されており、3つのロール、5つのイベント、3つの作成物によって規定される。 このルールを忠実に守ることで、スクラムの3つの柱である「透明性」、「検査」、「適応」を実現し、不確実性の高い環境下でチームが高いパフォーマンスを発揮できるようにするというものだ。

https://www.scrum.org/resources/scrum-framework-poster より引用。

一人スクラムとは

「一人スクラム」はスクラムチームのメンバーを自分一人だけで構成し、スクラムのルールに沿って自己管理を行うというアイデアだ。 調べてみると、自己管理にスクラムのエッセンスを取り入れている方をちらほら見かけた。

上述したように、スクラムは「チーム」で実践することを意図したフレームワークだ。 そのため、本記事の読者の中には「一人」と「スクラム」という対照的なワードに対して矛盾を覚える方もいるかもしれない。 実際に一人スクラムの効果について懐疑的だという意見も見かける。

しかしスクラムの本質は「経験主義」と「リーン思考」だ。 何をどのように進めたら良いのかを経験から学び(経験主義)、ムダを省いて本質的な問題と向き合う(リーン思考)ことで、チームマスタリーを得た状態を目指す。 経験から学ばずに思い込みによって間違った方向に進み続けてしまうことや、ゴールの達成には役立たない些末な問題に囚われてしまうことは、個人であっても陥りがちな問題だ。 経験主義とリーン思考を身につけるためのトレーニングとしてスクラムを捉え直すと、スクラムチームを構成するメンバーが一人であったとしてもそのエッセンスは有益ではないかと考えている。

どのように実践しているか

プロダクトバックログの管理

プロダクトバックログは、プロダクトの将来の状態を表すプロダクトゴールと、具体的な改善内容を表すプロダクトバックログアイテムのリストで構成される。 ここで「プロダクト」という言葉を使っているが、自分の場合は具体的なものに限らず、価値を実現した状態全般を「プロダクト」と定義している。 一人スクラムの場合のステークホルダーは主に自分や家族、友人などになり、例えば「フランス料理のフルコースを作れるようになる」というプロダクトゴールに「簡単なオードブルを作る」というプロダクトバックログアイテムが紐づく形になる。

プロダクトバックログアイテムの管理には Jira を利用している。 Jira には見積もりの割り当てや集計などの機能があるので、他のタスク管理ツールよりも一人スクラムを実践しやすいと考えている。 ただツールは本質ではないので、一人スクラムを継続するのに苦にならなければどんなツールを使っても良いと思う。

スプリントの実行

スクラムではスプリントと呼ばれるタイムボックス内で作業を進める。 自分の場合はタイムボックスを1週間に設定しており、月曜にスプリントを開始し、日曜にスプリントを閉じている。

月曜の朝はスプリントプランニングを行う。 そのスプリントの価値をスプリントゴールとして表現し、その達成に必要なアイテムをプロダクトバックログから選択し、実行可能な計画を立てる。 スプリントゴールがないと、日々の忙しさや娯楽の誘惑などに負けてスプリントを放棄してしまう可能性が高いので、面倒であっても設定したほうが良い。

火曜から日曜までの朝はデイリースクラムを行う。 昨日までの進捗を振り返り、必要に応じて今日以降の作業を再計画する。

朝に行っている理由は、他の時間帯に行った場合のデメリットが大きいからだ。 夕方にすると、仕事が長引いてしまったときに開始時刻が後ろにずれ込んでしまう。 デイリースクラムには決まった時間帯に行うことで作業のリズムを作る役割もあり、開始時刻を変更するとその効果が損なわれてしまう。 また深夜にすると翌日の自分に期待を掛ける形になるため、どうしても作業へのコミットメントが失われやすい。

日曜の夜はスプリントレビューとスプリントレトロスペクティブを行う。 スプリントで実際に作業をやり通してみると、想定していた成果が得られない場合がある。 スプリントレビューではそのギャップを埋めるためのアイテムを新たに作成したり、逆に不要なアイテムを削除したりする。

スプリントレトロスペクティブではプロセスに着目し、プロセスに内在する課題を解決できそうな取り組みを考え、適宜プロダクトバックログに積む。 自分の場合は KPT を使ってスプリントを振り返っている。

実際にやってみて感じたメリット

自分の能力に対して過度なノルマを設定しなくなった

自分は何かを頑張ったら実際以上によくやったと考えがちなタイプだ。 完了したアイテムの見積もりの累積として作業量を定量化してみると、自分が目標とした作業量と現実とのギャップが愕然とするほど大きいことが示される。 一人スクラムを始めたての頃は過大な量のアイテムをスプリントに詰め込みがちだったが、次第に現実と向き合い、着実な計画を立てるようになった。 そのような計画を立てて実行にコミットできた方が、振り返った際に有益なインサイトも得られやすい。

本当に価値があると思える作業に集中しやすくなった

自分の現実的な行動量が分かると、ある将来の時点までに自分が完了可能なタスクの量は想定より少ないことが分かる。 するとゴールとは直接関係のない作業に費やす時間がより勿体ないと感じるようになる。

分かりやすい例としては読書が挙げられる。 以前は有用そうだと感じた本をついつい買って積ん読していた。 一人スクラムを始めてから、作業を定量化することで読書に当てられる時間は非常に限られていることが分かった。 その本を読むことがゴール達成にどのように寄与するのか具体的に言語化できない場合、その本は買わないようになった。

最後に

一つだけ補足しておくと、「一人スクラム」は銀の弾丸ではない。

  • そもそもゴールがなければ一人スクラムを実践する価値がない。
  • スクラムイベントを実行しなければ一人スクラムは成立しない。
  • スプリントゴールの達成に全力を尽くすことにコミットできなければ一人スクラムは機能しない。

通常のスクラムの最終到達点がチームマスタリーを得ることとするなら、一人スクラムの最終到達点はセルフマスタリーを得ることだ。 ゴールに向かうマインドセットを伴っていなければ、一人スクラムを導入したとしても大きなメリットは得られないだろう。 勿論自分がセルフマスタリーを得ているとは到底言い難いのだが、ゴールに到達したいという気持ちがあるから一人スクラムが回せるし、一人スクラムが回ることでマインドセットが鍛えられていると感じる。

ゆめみの片岡さんが Atomic Scrum というフレームワークを提唱している。 スライド中の言葉を借りると、「漸次的共進化」を目指していけるのが一人スクラムの最大のメリットかもしれない。

以上、一人スクラムの実践例について紹介した。 自己管理の方法で悩んでいる方の参考になれば幸いだ。

明日はM&Aクラウド アドベントカレンダー 2021の6日目で、池田正樹さんです。 お楽しみに!